今日の1年前、野田知佑さんが亡くなった。野田さんについては知ってる人も知らない人もいるだろうが、僕ら世代でカヤック、カヌーをする人間で知らない人はほぼいない。カヤック、カヌーをしない人でも、チキンラーメンのCMでカヌーの前に犬を乗せていた人と説明するとなんとなく通じる。僕がよく受ける質問の一つだが、「大瀬さんは、なんでカヤックを始めたんですか?」先日もうちにきた若者からもこの問いを受けた。その答えはいたってシンプル、「一冊の本との出会いです。」それがこの野田知佑 著 「日本の川を旅する」だ。当時、1993年、バブルが弾けて大騒ぎの世の中、僕は大学4年生。教育学部だったのでそのまま教師を志していたのだが、教育実習にいって、日本の教育システムに嫌気がさし、教師になることを諦めた直後くらいだった。他にやりたいこともなかったので適当に就職活動を続けていた時にアイスホッケー 部同期だった渡部がこの本読んでみろよと僕に手渡したのだった。その本を読んだことで30年間、かみさんも家族も巻き込み、仕事もプライベートも全てカヤック を漕ぐということに費やしてきたので、この本が僕に与えた影響は語るまでもないだろう。野田さんは川を愛したのだが、僕は海の道へ進んだ。その違いもあり、僕がカヤック を始めてからは野田さんとほとんど関わらせてもらうことはなかったのだが、初めて日本の川を旅するを読んだ時に感じたカヤックの旅の自由な雰囲気、水の音を聴きながらキャンプサイトでの焚き火の傍らにいる至福の時間、自然の中から生を頂くことの満足感、何より男は荒野を目指し続けるのだというメッセージは僕の心の中に鮮明に刻まれている。そして今、自分が実践していることが不思議でもある。カヤックガイドになり、人と一緒に漕ぐことが多くなったが、「たまには一人で自分のカヤックの旅に出ろよ」と野田さんに言われている言われているよう気に勝手になる。野田さん、安らかに三途の川を下ってください。僕は海という荒野を漕ぎ続けます。