少し早い20周年記念の贈り物


エイアンドエフ時代の先輩の大島さんから、グランストリーム20周年の記念に贈り物を頂きました。大島さんはエイアンドエフの駆け出し時代にフェザークラフトについてのノウハウを叩き込んでもらった恩人です。そしてずっとグランストリームのサポーターとして見守って頂いてきました。10周年ではグリーンランドカヤックのハンドメイドの模型を頂き、今回は大島さんハンドメイドのカスタムナイフです。。俺の残りの人生このナイフを相棒に、海に山にウィルダネス(荒野)を渡り歩いてやろうと思います。大島さん、ありがとうございました。大事に使わせて頂きます。

以下は、大島さん了承の元、大島さんから頂いた手紙を掲載させて頂いています。「アウトドアの達人」とはこのような思考、哲学、洞察、経験を持つ人のことをいいます。是非、読んで頂きたいと思います。

大瀬 志郎様

Granstreamあと1年ちょっとで20周年ですね。
Congratulations on your Granstream Pre-20 years anniversary!
チョット早いけどおめでとうございます。・・・・・という事に。20年って凄いことだと思います。息子さんとハイダグアイにいかれた時の写真の中に数本のナイフか映っていました。使い込んでいるなと感じるものでした。飾っておくナイフではなく使うナイフ。その時にどんなナイフがあれば一本で済むかな?と思ったのを記憶しています。(予備は必要です。)それからナイフのデザインをおこして遊んでいました。
ナイフを作ろうと思ったきっかけは40年近く使っていたペティナイフのハンドルが昨年、壊れそれを直したことです。ナイフって作れそうだなと思いました。無謀にも人生で2本目のナイフを しかもオリジナルデザインのカスタムナイフ?をプレゼントさせていただきます。参考にしたナイフは多々あります。(最初に作ったナイフは結構よい出来でした・・・自己満足)使えるナイフだと良いのだけれど如何でしょうか。ブレードの磨きの不十分さ、傷、ハンドル周りの磨き残し(手順を間違えてこれ以上どうにもなりませんでした。)

まだまだ工具も少なく、不十分な一本だと思いますが使ってみてください。そして問題点などを評価してもらえると良いと思います。ナイフには切ったり、刺したり、剥いだりと色々な機能があるが、明らかに武器として使われるナイフはどうも好きになれない。また、それをイメージさせるものも好きになれない。どんな小さなナイフでも武器になりえるのだが。ナイフは必要最小限の大きさで良いと思っている。このナイフを作るにあたり拘ったのは「包丁の機能を持っているが包丁ぽいデザインにはしない。」だった。料理する機能であれば包丁(ペティナイフなど)のデザインがベターだと思う。ペティナイフだけではキャンプには心許ない。数本のナイフを持ち歩くのは嫌だ。そして本格的なナイフが欲しいと思う。先日、ロゴ入れの相談でマトリックスアイダさんにお邪魔したときに相田義人氏にお会いしナイフ触って頂きました。色々な持ち方をしながら「これ使いやすそうだね。」とお褒めの言葉を頂きました。お世辞かな?

追伸

ロゴが入りました。鳥を象ったロゴはTULUGAQワタリガラスです(イヌイットの言葉)。ロゴの意味合い、大切さを相田さんがお話ししてくれました。「制作者としての責任の所在を明確にするための物」と・・・。製作者:大島章嘉。背筋がピンとする思いです。 反対側のロゴはGranstreamになります。ちゃんと入っているでしょうか?こっちに入るロゴは所有者を意味するものだそうです。 これからの益々のご活躍を期待しております。

大島 章嘉

【ナイフの仕様】
TULUGAQ(トゥールガーク【Common Ravenワタリガラス】)
全長:175mm(7inch) 刃渡り:75mm(3inch)刃高:26mm 刃厚2mm(5/64inch)本体重量:85g 総重量:127g
ブレード鋼材:VG-10(鏡面仕上げ) ブレード形状:フラットグラインド タング:フルタング
ハンドル素材:リンネマイカルタ レッド ヒルト:ヒルトレス
ファスニング:ニューボルト(ニッケル/ステンレス)
ソングホール:ステンレス
シース:カイデックス スウィンガー・シースタイプ
ブレード
VG-10というステンレス合金の鋼材で靱性が高く、耐摩耗性、耐腐食性に優れ、切れ味が持続します。HRC硬度も60を超えます。

鏡面仕上げは#2500番までかけ、バフ仕上げをすることで適度な撥水性を持たせてあります。セミスキナーとケーパーフィンの中間あたりの形状なります。セミケーパーフィンとでも名付けましょうか。ポイント位置を少し高くしました。これはハンドルのバットを上げるための工夫です。刃厚は2mmと薄く、小刃から峰までを刃高を少し高く設計。(包丁機能を加えたいので。)キャンプ料理限定であれば4インチ以上のブレードが快適だと思います。そしてもっと薄い1mmとか1.5mmの厚さが適しているように感じました。小刃片側25度の角度を持たせてあります。一般的なアウトドアナイフと同様です。料理に限定するなら片側20度以下で研ぎ直すほうが良いと思います。(但し、脆くなります。)刃研ぎは比較的楽だがオイルストーンをお勧めする。ハンドル麻とフェノール樹脂を圧縮することで堅牢性、耐水性に優れているリンネマイカルタという素材です。色は赤です。ハンドルの厚さを太くすることで取り回しの良く力が伝わりやすい仕上がりになったと思っています。形状にもこだわりました。ライナーの凹みはどの指をかけても使いやすくし細かい作業を可能にした。バット下方の凹みは薬指小指がしっかりとホールドでき手袋をしても外れないように。バットが少し上がった形状にしました。これはまな板でも使いやすくすることを目的としました。ソングホールの紐はパラコードです。ダイアモンドノットはホールド感の向上に役立ちます。シース海水を浴びても使用に耐えるようにしたかったので革製ではなく、水捌けのよいカイデックスという素材。メンテナンスフリーで洗い流すだけという簡単さを採用しました。夏場、この黒いシースがどのような影響が出るか分かりません。200度を超えると変形する素材です。是非、直射日光の下でテストしてみてください。

【ナイフメイキング後記】
このナイフは大瀬君にプレゼントするつもりで作り始めたものです。カヤッカーであり、アウトドアマン・ナチュラリストである大瀬君に似合うものを。そしてライフスタイルから普段の生活の中でも使えるものを。カヤックで漕ぎだすと1日の半分近くは海上に居る。パドリングの際に携帯するエマージェンシナイフのそれとは全く違う。海と寄り添って使うナイフにとって大切なことは。防腐食機能だと思う。カヤックには水が入る、そのために荷物は防水バッグに入れて持ち歩く。ナイフはどこに収納するのだろうか?デッキバックの中かコッヘルなどのキッチン用具と一緒か?おそらく防水機能がない収納バッグになるだろう。メッシュバッグかもしれない。そして上陸したらすぐに取り出せる位置にあることが推測できる。実際、僕はそうしていた。

上陸すると最適なキャンプサイトを見つける。寝床の確保。近場を探索。薪を探しに行く。火を起こす。魚を捕まえる。野にある食材を探す。料理をする。箸代わりに刺して食べる。酒を飲む。洗濯もする。ロープワークも必要だ。箸は作るだろうか。長雨や台風で停滞すると暇つぶしにマグカップを作るだろうか。翌朝の最初の仕事は焚き火を起こしコーヒーをたてる。料理を作る。食べる。カヤックで漕ぎだす。・・・・・次に上陸する場所を探す。昼食?夕食?結構、ナイフは至る所で使う。こんなことをイメージしてデザインをスタート。

【ナイフテスト】
先ずはまな板の上での使い勝手をテストしました。
カット機能
トマトの薄切り、玉ねぎの千切り、リンゴの皮むきなど各種野菜、各種肉のカットは違和感なくできました。キッチンナイフには及びませんが充分な機能を確認。フラットグラインドの効果かと思います。ロープカット快適。
ケーパー機能・スキニング機能魚(鯵)をさばく。鶏の解体。まだ、試していません。結果を教えてください。
カービング機能
菜箸を作りテスト。現物が手元にあると思います。充分な加工が出来ると思います。粗品としてお受け取りください。一つ難を言えば、ブレードが2mmと薄いので峰を押さえる左親指が少し痛くなる。3mm~5mmがアウトドアナイフの標準である理由がここにもあると感じました。ブレードの厚さは丈夫さだけでなく使用感にも関係しているのだと。買ったナイフでは分からない感覚。というか2mmのアウトドアナイフというのはファクトリーナイフの分野では見かけない。最近流行りのバトニングやフェザーリングというものは出来ると思うがその機能は必要ない。今まで数えきれないほどの焚き火をしてきたがそんなことをやったのは数えられるくらいだ。バトニングは鉈か斧に任せたい。【ワタリガラスの伝説 クリンギットインディアンの古老の言葉】

今から話すことは、わたしたちにとって、とても大切な物語だ。だから、しっかりと聞くのだ。たましいのことを語るのを決してためらってはならない。ずっと昔の話だ。どのようにわたしたちがたましいを得たか。

ワタリガラスがこの世界に森をつくった時、生き物たちはまだたましいをもってはいなかった。人々は森の中に座り、どうしていいのかわからなかった。木は生長せず、動物たちも魚たちもじっと動くことはなかったのだ。ワタリガラスが浜辺を歩いていると海の中から大きな火の玉が上がってきた。ワタリガラスはじっと見つめていた。すると一人の若者が浜辺の向こうからやって来た。彼の嘴は素晴らしく長く、それは一羽のタカだった。タカは実に速く飛ぶ。「力を貸してくれ」通り過ぎてゆくタカにワタリガラスは聞いた。あの火の玉が消えぬうちにその炎を手に入れなければならなかった。「力を貸してくれ」 三度目にワタリガラスが聞いた時、タカはやっと振り向いた。「何をしたらいいの」「あの炎をとってきて欲しいのだ」「どうやって?」 ワタリガラスは森の中から一本の枝を運んでくると、それをタカの自慢の嘴に結びつけた。「あの火の玉に近づいたなら、頭を傾けて、枝の先を炎の中に突っ込むのだ」 若者は地上を離れ、ワタリガラスに言われた通りに炎を手に入れると、ものすごい速さで飛び続けた。炎が嘴を焼き、すでに顔まで迫っていて、若者はその熱さに泣き叫んでいたのだ。ワタリガラスは言った。「人々のために苦しむのだ。この世を救うために炎を持ち帰るのだ」 やがて若者の顔は炎に包まれ始めたが、ついに戻ってくると、その炎を、地上へ、崖へ、川の中へ投げ入れた。その時、すべての動物たち、鳥たち、魚たちはたましいを得て動きだし、森の木々も伸びていった。それがわたしがおまえたちに残したい物語だ。木も、岩も、風も、あらゆるものがたましいをもってわたしたちを見つめている。そのことを忘れるな。これからの時代が大きく変わってゆくだろう。だが、森だけは守ってゆかなければならない。森はわたしたちにあらゆることを教えてくれるからだ。わたしがこの世を去る日がもうすぐやって来る、だからしっかり聞いておくのだ。これはわたしたちにとってとても大切な物語なのだから。

クリンギットインディアンの古老、オースティン・ハモンドが1989年、死ぬ数日前に、クリンギット族の物語を伝承してゆくボブをはじめとする何人かの若者たちに託した神話だった。この古老の最後の声を、ボブはテープレコーダーに記録したのだ。

「森と氷河と鯨」
ワタリガラスの伝説を求めて
星野道夫 文・写真 世界文化社より引用

「星野道夫の仕事 第4巻 ワタリガラスの神話」を参照

【ワタリガラスとカヌー(カヤック)】

人類がまだ木をくり貫いた小舟に乗っていたころの話だ。(おそらく3万年~1万年くらい前)ワタリガラスは若者に請け負った。「クジラやシャチを象った船(カヤック)を作り、それで沖に出なさい。カヤックで命を落とすことはない」と

「宇宙船とカヌー」より

30年くらい前、フジテレビで放映した、「宇宙船とカヌー」のナレーションで蟇目亮さんが神話として、こんな内容で語っていたのを記憶しています。

【ワタリガラスの神話】
ワタリガラスの神話はイヌイットやエスキモーだけでなく世界中にある。ギリシャ神話・北欧神話・ケルト神話・アイヌ神話など。旅人、いたずら好き、知恵者、賢さ、身勝手さ、共存、気まぐれ者、トリックスター、決断力、行動力をもつ、獲物を見つける才能、常に自主的に動く自由な存在、などなど色々な側面を持っている神。
ワタリガラスの知恵という。
ワタリガラスが世界を創造した。
世界の創造者から自由を勝ち取った。
獲物を多くの動物と分け合う鳥
獲物の居場所を教えてくれる。
カラスは知恵の神となる…決して本質からは外れない。ワタリガラスの気まぐれさ、自由さ、賢さを無視して、神話の中のワタリガラスだけが堅実で正直な存在に為ることは、在り得ない。自然に忠実で、人間の理想だけで歪めなかった、ありのままを受け入れる生き方をしたのだ。神話も伝承も、単なる物語ではなく、人の、何かを求める意思あってのものだと思う。
 過去の人々が伝えたかったのは、決して「過去の事実」では無い。字面のままではない、伝承という形を取った「真実」、…人が辿ってきた精神世界の軌跡なのではないだろうか。そこには、人の心が見てきた風景が、いつまでも息づく。

ワタリガラスの謎 バーンド・ハインリッチ(渡辺政隆・訳),D.B.S,1995参照
神話を通して、人の魂はどこへ還っていくのか。どこに心の安らぎを求めるのか。行ったこともない氷の大地と、灰色の空を舞う大きな黒い翼を思う時、冬の風は響きを変える。私は神話を受け継ぐ血筋の者ではないし、ワタリガラスの家系でもない。けれど、その神話は、支配のために作られたどんな神話とも違い、自分が小さな人間であると同時に、地上に生きる多くの生き物たちの仲間だということを証明してくれる。
 人間は、神話の中ではワタリガラスが創るのに失敗した出来そこないの生き物だったけれど、美しい神話を語り継ぐことの出来る、唯一の存在である。
 環境破壊だ、戦争だ汚職だ殺人だと悪いことばっかりな人間ですが、そう思うと、捨てたものでもない気がする…多少のなぐさめにしかならないとしても。

大島 章嘉