以下は、大島さん了承の元、大島さんから頂いた手紙を掲載させて頂いています。「アウトドアの達人」とはこのような思考、哲学、洞察、経験を持つ人のことをいいます。是非、読んで頂きたいと思います。
大瀬 志郎様
まだまだ工具も少なく、不十分な一本だと思いますが使ってみてください。そして問題点などを評価してもらえると良いと思います。ナイフには切ったり、刺したり、剥いだりと色々な機能があるが、明らかに武器として使われるナイフはどうも好きになれない。また、それをイメージさせるものも好きになれない。どんな小さなナイフでも武器になりえるのだが。ナイフは必要最小限の大きさで良いと思っている。このナイフを作るにあたり拘ったのは「包丁の機能を持っているが包丁ぽいデザインにはしない。」だった。料理する機能であれば包丁(ペティナイフなど)のデザインがベターだと思う。ペティナイフだけではキャンプには心許ない。数本のナイフを持ち歩くのは嫌だ。そして本格的なナイフが欲しいと思う。先日、ロゴ入れの相談でマトリックスアイダさんにお邪魔したときに相田義人氏にお会いしナイフ触って頂きました。色々な持ち方をしながら「これ使いやすそうだね。」とお褒めの言葉を頂きました。お世辞かな?
追伸
大島 章嘉
鏡面仕上げは#2500番までかけ、バフ仕上げをすることで適度な撥水性を持たせてあります。セミスキナーとケーパーフィンの中間あたりの形状なります。セミケーパーフィンとでも名付けましょうか。ポイント位置を少し高くしました。これはハンドルのバットを上げるための工夫です。刃厚は2mmと薄く、小刃から峰までを刃高を少し高く設計。(包丁機能を加えたいので。)キャンプ料理限定であれば4インチ以上のブレードが快適だと思います。そしてもっと薄い1mmとか1.5mmの厚さが適しているように感じました。小刃片側25度の角度を持たせてあります。一般的なアウトドアナイフと同様です。料理に限定するなら片側20度以下で研ぎ直すほうが良いと思います。(但し、脆くなります。)刃研ぎは比較的楽だがオイルストーンをお勧めする。ハンドル麻とフェノール樹脂を圧縮することで堅牢性、耐水性に優れているリンネマイカルタという素材です。色は赤です。ハンドルの厚さを太くすることで取り回しの良く力が伝わりやすい仕上がりになったと思っています。形状にもこだわりました。ライナーの凹みはどの指をかけても使いやすくし細かい作業を可能にした。バット下方の凹みは薬指小指がしっかりとホールドでき手袋をしても外れないように。バットが少し上がった形状にしました。これはまな板でも使いやすくすることを目的としました。ソングホールの紐はパラコードです。ダイアモンドノットはホールド感の向上に役立ちます。シース海水を浴びても使用に耐えるようにしたかったので革製ではなく、水捌けのよいカイデックスという素材。メンテナンスフリーで洗い流すだけという簡単さを採用しました。夏場、この黒いシースがどのような影響が出るか分かりません。200度を超えると変形する素材です。是非、直射日光の下でテストしてみてください。
上陸すると最適なキャンプサイトを見つける。寝床の確保。近場を探索。薪を探しに行く。火を起こす。魚を捕まえる。野にある食材を探す。料理をする。箸代わりに刺して食べる。酒を飲む。洗濯もする。ロープワークも必要だ。箸は作るだろうか。長雨や台風で停滞すると暇つぶしにマグカップを作るだろうか。翌朝の最初の仕事は焚き火を起こしコーヒーをたてる。料理を作る。食べる。カヤックで漕ぎだす。・・・・・次に上陸する場所を探す。昼食?夕食?結構、ナイフは至る所で使う。こんなことをイメージしてデザインをスタート。
カット機能
ケーパー機能・スキニング機能魚(鯵)をさばく。鶏の解体。まだ、試していません。結果を教えてください。
カービング機能
菜箸を作りテスト。現物が手元にあると思います。充分な加工が出来ると思います。粗品としてお受け取りください。一つ難を言えば、ブレードが2mmと薄いので峰を押さえる左親指が少し痛くなる。3mm~5mmがアウトドアナイフの標準である理由がここにもあると感じました。ブレードの厚さは丈夫さだけでなく使用感にも関係しているのだと。買ったナイフでは分からない感覚。というか2mmのアウトドアナイフというのはファクトリーナイフの分野では見かけない。最近流行りのバトニングやフェザーリングというものは出来ると思うがその機能は必要ない。今まで数えきれないほどの焚き火をしてきたがそんなことをやったのは数えられるくらいだ。バトニングは鉈か斧に任せたい。【ワタリガラスの伝説 クリンギットインディアンの古老の言葉】
ワタリガラスがこの世界に森をつくった時、生き物たちはまだたましいをもってはいなかった。人々は森の中に座り、どうしていいのかわからなかった。木は生長せず、動物たちも魚たちもじっと動くことはなかったのだ。ワタリガラスが浜辺を歩いていると海の中から大きな火の玉が上がってきた。ワタリガラスはじっと見つめていた。すると一人の若者が浜辺の向こうからやって来た。彼の嘴は素晴らしく長く、それは一羽のタカだった。タカは実に速く飛ぶ。「力を貸してくれ」通り過ぎてゆくタカにワタリガラスは聞いた。あの火の玉が消えぬうちにその炎を手に入れなければならなかった。「力を貸してくれ」 三度目にワタリガラスが聞いた時、タカはやっと振り向いた。「何をしたらいいの」「あの炎をとってきて欲しいのだ」「どうやって?」 ワタリガラスは森の中から一本の枝を運んでくると、それをタカの自慢の嘴に結びつけた。「あの火の玉に近づいたなら、頭を傾けて、枝の先を炎の中に突っ込むのだ」 若者は地上を離れ、ワタリガラスに言われた通りに炎を手に入れると、ものすごい速さで飛び続けた。炎が嘴を焼き、すでに顔まで迫っていて、若者はその熱さに泣き叫んでいたのだ。ワタリガラスは言った。「人々のために苦しむのだ。この世を救うために炎を持ち帰るのだ」 やがて若者の顔は炎に包まれ始めたが、ついに戻ってくると、その炎を、地上へ、崖へ、川の中へ投げ入れた。その時、すべての動物たち、鳥たち、魚たちはたましいを得て動きだし、森の木々も伸びていった。それがわたしがおまえたちに残したい物語だ。木も、岩も、風も、あらゆるものがたましいをもってわたしたちを見つめている。そのことを忘れるな。これからの時代が大きく変わってゆくだろう。だが、森だけは守ってゆかなければならない。森はわたしたちにあらゆることを教えてくれるからだ。わたしがこの世を去る日がもうすぐやって来る、だからしっかり聞いておくのだ。これはわたしたちにとってとても大切な物語なのだから。
クリンギットインディアンの古老、オースティン・ハモンドが1989年、死ぬ数日前に、クリンギット族の物語を伝承してゆくボブをはじめとする何人かの若者たちに託した神話だった。この古老の最後の声を、ボブはテープレコーダーに記録したのだ。
「星野道夫の仕事 第4巻 ワタリガラスの神話」を参照
人類がまだ木をくり貫いた小舟に乗っていたころの話だ。(おそらく3万年~1万年くらい前)ワタリガラスは若者に請け負った。「クジラやシャチを象った船(カヤック)を作り、それで沖に出なさい。カヤックで命を落とすことはない」と
「宇宙船とカヌー」より
30年くらい前、フジテレビで放映した、「宇宙船とカヌー」のナレーションで蟇目亮さんが神話として、こんな内容で語っていたのを記憶しています。
大島 章嘉