photo by Ken Ishida
私は15年ほど前から冬の奥琵琶湖を漕ぎ、冬の日本海でトレーニングを続けています。奥琵琶湖の厳冬期は、水温7度、気温0度付近という環境です。中途半端なウェアで立ち向かい、琵琶湖の真ん中で転覆し、流されるようなことでもあれば、数時間で死に至れる環境ということです。その環境下でいかに安全に快適に自分や当店のユーザーに冬の琵琶湖を楽しんでもらえるかということを考え抜いてきました。また冬の琵琶湖を漕げる装備というのは、北海道や東北エリアを除く大方の日本の冬や極地の夏を漕ぐということにも応用できると思っています。15年前ですが、冬期のパドリングウェアに関しては、今ほど確立しておりませんでした。冬のパドリングウェアというとウェットスーツのロングジョンにドライトップというのが、一般的な装備でした。しかし 私は、カヤックツーリングにはウェットスーツは適さないと考えていました。ウェットスーツよりアウトドアウェアに使用される防水透質性のフィルムを使った生地を使ったウェアの方が快適であると考えていました。ゴア社のゴアテックスやトーレのエントラントのような防水透質性のフィルムを使った(中にサンドイッチした)生地は、通常のレインウェア(雨合羽)のような生地で作られていますが、レインウェアより、パドリングウェア(カヤックウェア)は、生地自体からの水の浸入を押さえる防水性能が高い設定となっています。生地自体の防水性能と身体から発散される水蒸気を外に逃がす透質性能は、降ってくる雨を防げばいいレインウェアと完全に水の中に入っても水の浸入を許してはならないパドリングウェアでは異なり、パドリングウェアには高い防水性が求められます。生地が完全防水となった結果、足部分にも同素材のソックスが付き、手首と首部分は、ラテックスゴムで水の浸入を抑え、着用する時に必要な開口部の開閉部に防水ジッパーを着用することで、水に浸かっても、ウェアに覆われている部分は全く濡れないカヤックウェアが作り出されました。これがカヤック用のフルドライスーツです。フルドライスーツは20年前くらいから存在しましたが、高価なものであり一般的ではありませんでした。しかし、ちょうどそのころpalm(パーム)社から、防水透質生地を使ったソックスのついた安価なフルドライスーツが発売されました。そのソックス付きのドライスーツの足を濡らさなくていいという快適性に味をしめた私は、このソックスがついたパドリングパンツがあると便利だと思いました。世界中のメーカーにそのようなパンツがなかったので、高階救命器具社に依頼して、足を濡らすことなく快適にカヤックを漕げて、上陸した後も着用したままでルックスのおかしくないパンツを作ってもらいました。それがレイブンパンツです。そしてレイブンパンツに始まり、高階救命器具の協力を得、約10年かけてドライスーツに至るまでの理想的なパドリングウェアのラインナップを確率することが出来ました。冬期のパドリングウェアというものは、ファッションウェアで代用の効かない命を守るための大切なギアです。ご自分の漕がれるエリアやパドリングスタイルに合わせて慎重にかつ妥協することなくお選び頂きたいと思います。
フルドライスーツ
どんな天候であろうとも、転覆して水につかろうとも、ドライスーツの中を濡らさずドライに保てます。いわゆる完全防水のツナギです。もちろんこの防水性能は安全性につながり、パドリングウェアの中で最も安全なウェアといえるでしょう。生地自体の保温性は低いため、ドライスーツの中に着るインナーで保温性を調整します。あまりドライスーツの中にインナーを着込んでしまうと、運動時の発汗量が多くなり、汗がドライスーツの中で結露してしまうので注意が必要です。転覆対策としては、理想的なウェアですが、首をラテックスゴムで締め付けるというのに抵抗がある人もいます。その場合はまったく締め付けを感じなくなるくらいまで、ラテックスゴムを切って調整することで解決します。着用時必要な開口部分の開閉に必要な防水ジッパーには、何種類かのタイプがあります。またそのジッパーが上半身の前部分についているものと後ろ部分についているものがあります。最近は後ろについているものが主流となりつつありますが、一人での着用が困難です。ツーリング用であれば、前ジッパータイプを選びましょう。季節を問わずに一人で漕ぐ機会の多い方、またロールやセルフレスキューのトレーニングをされる方には、フルドライスーツはおすすめです。一般的にはフルドライスーツにはフードが付いないので、フードが必要な天候の場合はドライスーツの上からレインウェアを重ね着することもあります。
ドライトップ+セミドライパンツ
首、手首にラテックスゴムを使用するドライトップと防水ソックスの付いたセミドライパンツとを胴体部分で連結させることにより、フルドライスーツの用に一体化させます。ドライスーツに比べ、着用がしやすい点、上陸してから上半身のみウェアを着替えられる点がこの組み合わせのメリットです。しかしフルドライスーツに比べ、胴体の連結部分の防水性は完全ではなく、転覆し、カヤックから落ち、水に使った場合はこの部分から水が染みて中が濡れることについては覚悟が必要です。カヤックが転覆しても、沈脱せず、ロールで起き上がれる方にはベストな組み合わせかもしれません。フルドライスーツ同様、首のラテックスの調整が必要です。またフードが付いていないものが一般的です。
セミドライトップ+セミドライパンツ
手首にのみ(首はなし)ラテックスゴムを使用したセミドライトップとセミドライパンツの組み合わせは、転覆時のロールという動作には適しませんが、沈脱には対応します。(胴体連結部分の防水性に関しては、ドライトップ+セミドライパンツと同様です。)首のラテックスの締め付けにも耐えられないという方におすすめです。フードが付いているものが一般的です。完全防水ではありませんが、インナーを工夫すれば、厳冬期のツーリングに使用することも可能です。
レインウェア+セミドライパンツ
セミドライパンツにレインウェアをあわせます。雨やしぶきは防げますが、転覆したら上半身はずぶぬれとなります。水温が比較的暖かい雨天時の格好です。手首にラテックスゴムがないので、注意しないとパドルをつたってきた水が手首から侵入します。水が冷たい真冬は絶対に転覆しないということが条件の時に着用します。真夏でもレインウェアは、必ずカヤックのデッキに置いておきます。積乱雲の発生に伴う風雨を受けると真夏でも低体温症となる可能性があります。その場合、ライフベストを着用した状態でレインウェアをその上から着用するため、すこし大きめのサイズかもしくはパドリング用にカッティングされたレインウェアがおすすめです。
上記は、厳冬期の琵琶湖(水温 摂氏7度、気温0度周辺)を中心に考えております。また今回のご提案以外の選択肢もあります。ご自分のエリアや状況に照らし合わせて、参考にして下さい。
text by 大瀬志郎