まあまあな勢いの雨に濡らされた海津の山は、その雨水を身に纏って深碧を増す。薄く山にかかる霧も相まって妖艶な雰囲気が漂う。準備をする僕たちを容赦なく叩いた雨雲は、出発をする頃にはこの趣ある情景を残してどこかへと去っていた。
気づけば土日の天気予報を隙間なく埋めていた雨マークも気づけば晴れマークに変わっている。
「私晴れ女なんです」「僕の日頃の行いが、、」
それぞれが自分のおかげだと信じてやまず。かくいう僕も
「おれの晴れ男パワーが火を吹いた」
と、終始思っていた。実は僕の晴れ男はフェザークラフト社社長、ダグ・シンプソン公認なのです。
海津大崎を背に、50km先の琵琶湖大橋に向けて出発。1泊2日のカヤック旅だ。 沖をまっすぐいってしまっては50kmに届かないしなにより面白みがないのでなるべく岸を舐めるようにゆく。普段より50cmほど水位の高い琵琶湖に浸かり、まるで琵琶湖のマングローブ的な柳の森を横目に。 初日は20kmほど進み、安曇川の河口にテントを張った。待宵草が一面に、頭を並べて夜を待っていた。 二日目は予報に反して朝から陽の光が差した。 昨日の雨の湿気で這い上がってきたであろうナメクジがテントにへばりついていたが、カナダの巨大ナメクジに比べればかわいいもんだ。デコピンで軽く飛ばしておいた。
8:00出発。 停泊地から琵琶湖大橋までは30km。時速6km /hで50分漕いで10分休憩、1時間に5km進むとすると単純計算で6時間。昼飯休憩1時間とすれば15:00到着予定となる。 だが水上では路面のように計算どおりというわけには行かない。ここに潮流や風など外的要因が加わり予定より時間がかかったり縮まったりするのであるが、この外的要因が少なく小さいのが琵琶湖というフィールドである。ここではペース配分、自分の限界、地形がもたらす風の動きや目標物とのとの距離感、その他自分の課題と余裕を持って十分に向き合うことができる。キャンプを含むオーバーナイトのシーカヤックツーリングの入り口と名打っているのもそれが所以だ。 その先を求めるのであれば、あとは足し算をしていく。長距離を漕ぐのであれば漕ぐ時間を伸ばしそれに耐えうる体力が必要であるし、長旅に出るのであれば食料計画を練る必要がある。瀬戸内を漕ぐなら潮流の知識。外海を漕ぐならうねりの知識。南国ならリーフの知識や暑さ対策、北国では熊をはじめとする野生動物への理解や寒さ対策、、。この足し算はきっと一生かけても終わることがない。 琵琶湖はその入り口として、そして再確認のフィールドとして最適なのだ。 暑くも寒くもない心地よい5月の風を感じながら、琵琶湖大橋を目指して南下する。
白髭神社の湖上に浮かぶ鳥居を潜り、 湖底に敷かれた真っ白な花崗岩の砂の上を滑らす。 南へ下ると湖北より少し賑やかで、 ガラの悪いジェット軍団(個人の感想です)がわざわざ僕たちのギリギリを走り抜けていったりもするが。 それも琵琶湖のリアルである。 安曇川を出る頃、うっっすらと水平線に顔を出していた琵琶湖大橋も徐々にその全貌をのぞかせる。 琵琶湖大橋に到着したとき、GPSが表示した二日間の移動距離は49km。数字に厳しいメンバーが集まっていたので、ゴールである琵琶湖大橋を通り越して、足りない1km分をきっちり漕いで終了。 車での帰り道。動力でも案外時間のかかるスタート地点までの道のりに、確かにカヤックで旅してきた実感を得る。